blog banner

パルミジャーニ・フルリエから、トンダ PF GMT ラトラパンテ ヴェルツァスカが新作として登場

モデル名にもなっている“ヴェルツァスカ”とは、スイス・ティチーノ州にあるヴェルツァスカ渓谷のこと。そこを流れるヴェルツァスカ川は、底までくっきり見えるほど透明で、氷河のように澄んだエメラルドグリーンの水が特徴。同渓谷とこの川は、スイス南部屈指の美しい観光地として知られるが、新作ではその独特な荘厳な色調を、ブランドが“ヴェルツァスカ・グリーン”と呼ぶダイヤルカラーとして表現した。

2025年の新作も基本的には2022年に発表された初作、ミラノブルーダイヤルのトンダ PF GMT ラトラパンテと同じ仕様を備える。ダイヤルには特徴的なバーリーコーン(フランス語ではグランドルジュと呼ぶ)模様のギヨシェが手作業で彫り込まれる。そこに合わせたロジウム加工を施したホワイトゴールドの針とインデックスが、きらめく光を繊細に捉える。ポリッシュとサテン仕上げを組み合わせたステンレススティール製ブレスレットと繋がる直径40mmのSSケースの上面を飾るのは、プラチナ950製のローレット加工ベゼルだ。

特徴的な機能も変わらない。重なった2本の時針が、ローカルタイムとホームタイムを同時に表示する。ホワイトゴールドの時針がローカルタイム(現地時間)で、8時位置のプッシュボタンを押すことにより針が1時間単位で進み、ローズゴールドの時針(自国時間)は固定されたまま基準時刻を示す。単一のタイムゾーンに戻るときは、3時位置のリューズと一体化したプッシュボタンを押すと、WGのローカルタイム針が RGのホームタイム針と重なるようにジャンプする。ふたつの異なる時刻を瞬時に読み取ることができ、不要であれば隠すことができるというわけだ。これにより、一般的なGMTウォッチとは異なる優れた視認性と、洗練されたエレガントな外観を得ている。

このアイコニックなスプリットGMT機能を実現させているのが、自社製自動巻きムーブメントのCal.PF051だ。22KRG製マイクロローターを搭載することでムーブメントの厚みを抑え、さらに搭載機能をスプリットGMTに絞ることで、ケース厚を10.7mmに抑えた。また、ローターにはバーリーコーン模様のギヨシェを、地板にはペルラージュ、ブリッジにはコート・ド・ジュネーブ装飾を施すなど細部の仕上げも抜かりがない。

トンダ PF GMT ラトラパンテ ヴェルツァスカは通常コレクションで、価格は468万6000円(税込)。2025年春からの発売を予定している。

なお、トンダ PF GMT ラトラパンテについてより詳しい情報を知りたいという方は、以前ローガン・ベイカー(Logan Baker)が執筆した、より機能の詳細に言及した記事と、撮り下ろし写真を交えたHands-On記事も合わせてご覧いただきたい。余談だが、2022年に登場したミラノブルーダイヤルモデルは価格が大きく変動し、現在は新作と同じ468万6000円(税込)となっている。

ファースト・インプレッション

広報写真ではあるが、“なんて上品なダイヤルなのだろう”というのが、この時計を最初に見た印象だった。プレス向けの資料にはヴェルツァスカ渓谷と川の写真があり、ダイヤルカラーは“ヴェルツァスカ渓谷の、澄んだ清流の原始的な美を捉えたもの”、“ル・コルビュジエのカラーパレットから着想を得たもの”であると書かれていた。

ル・コルビュジエ(Le Corbusier)といえば、近代建築の巨匠として有名だが、自身の建築哲学に基づいて開発した、建築用の調和のとれた色彩体系として“ポリクロミー・アルシテクチュラル(Polychromie Architecturale、フランス語で建築的色彩構成の意)”というものを提唱したことでも知られている。これは単なる建築における美しい色の選び方ではなく、“空間と感情のつながり”、“自然との調和”を考えて計算された色を特徴とした。ル・コルビュジエは、色が空間の印象に大きな影響を与えると考え、色は単なる装飾ではなく、人間の心理に働きかける建築要素であるという哲学を持っていた。

ル・コルビュジエのカラーパレットは全63色(1931年に43色、1959年追加で20色を発表)あるが、ヴェルツァスカ・グリーンはこのカラーパレットにある色ではない。“着想を得た”という言葉どおり、パルミジャーニ・フルリエ独自の色彩表現となっている。

パルミジャーニ・フルリエと、ル・コルビュジエには直接的な関係はないが、両者の哲学やデザインには通じるものがある。実はともにスイス出身で、ル・コルビュジエはラ・ショー=ド=フォン、一方のパルミジャーニ・フルリエ創業者、ミシェル・パルミジャーニ氏もスイス・ヌーシャテル州出身。どちらもジュラ山脈地帯のクラフトマン文化と自然の美に強い影響を受けて育ったことがうかがえる。

また、ともに黄金比や幾何学的ラインを追求するところも共通点と言えよう。ル・コルビュジエは建築において、モデュロール(人体の寸法と黄金比から数学的な比率を見いだし、それを建造物の機能の向上のため用いようという理論)を使って美しい比率を追求したが、パルミジャーニも時計デザインのなかで黄金比や、幾何学の調和を意識しており、そのアプローチにはコルビュジエの思想に近しいものがあるように思う。

この時計に関して、個人的に気になる点を挙げるとするならば、48時間のやや短いパワーリザーブだろうか。これはムーブメントの厚さを抑えることができる反面、同じ階層に輪列とローターが埋め込まれてしまうため、大きな動力ぜんまいを収めるスペースが限られてしまうというマイクロローターならではの特性と言える。筆者のように時計にツールウォッチのような機能性を求める層にはデメリットとなり得るかもしれないが、以前グイド・テレーニCEOがインタビューで答えていたように、ミニマルでピュアということがデザインのエッセンシャルな要素であり、⾃⾝の審美眼でプライベートラグジュアリーな時計を選ぶような⼈をターゲットとするパルミジャーニ・フルリエにとっては、それほどクリティカルなことではないのだろうと感じている。

やや短いパワーリザーブを難点としてあえて挙げたが、それを補って余りあるほど、この時計の魅力を支える、確固たる哲学に基づいた美に対する独自の感性に引かれている自分が確かにいる。実際のヴェルツァスカ・グリーンダイヤルの質感はどのようなものだろうか。ミラノブルーダイヤルモデルがそうだったように、このダイヤルも光の加減でざまざまな表情を見せてくれるに違いない。そんな期待を抱きながら、1日でも早く実機を見れる機会が訪れることを願っている。